コラム

【遺産分割調停における不動産評価方法】

遺産分割調停における不動産の評価額とは?公平な分割のための評価方法

遺産分割において、不動産の評価は極めて重要な意味を持ちます。特に調停に発展した場合、評価方法の選定が相続人間の合意形成に大きく影響します。本コラムでは、遺産分割調停における不動産評価の基本的な考え方とポイントを解説します。


なぜ不動産評価が重要なのか?

不動産は相続財産の中でも高額になりやすく、現金のように簡単に分割できません。そのため、以下のような分割方法が検討されます。

  • 共有分割:誰か一人を所有者にするのではなく、相続人全員の共有にする方法
  • 換価分割:不動産を売却し、売却だ金を金銭として分割する方法
  • 代償分割:誰か一人が不動産を取得し、他の相続人には金銭で精算する方法

このうち、特に代償分割の場合、不動産の評価額が分割の公平性を左右するため、極めて重要です。


評価方法の種類

遺産分割調停では、以下の評価方法が用いられることがあります。

  1. 固定資産税評価額:課税目的の評価で、実勢価格の約7割程度。
  2. 路線価:相続税申告用の評価で、実勢価格の約8割。
  3. 市場価格(実勢価格):実際の取引価格。不動産業者の査定や鑑定士の鑑定に基づく。
  4. 不動産鑑定評価:不動産鑑定士による詳細な評価。費用が高いため、調停ではあまり使われない。

調停での評価方法の決定と交渉のポイント

調停では、家庭裁判所の調停委員が相続人の主張を聞き取り、調整を行います。評価方法について合意が得られない場合、裁判所が不動産鑑定士による鑑定を命じることもあります。

固定資産税評価額での提案にどう対応するか?

実務では、相手方が固定資産税評価額を基準に不動産価値を低く見積もり、代償金の支払いを抑えようとするケースが少なくありません。しかし、固定資産税評価額は課税のための基準であり、実際の市場価格よりも23割低くなる傾向があります 。

このような場合には、以下の対応が有効です:

  • 不動産業者による査定書を取得し、実勢価格を主張する
  • 複数業者の査定を比較し、平均値を提示する
  • 調停委員に対して、実勢価格が公平な評価であることを説明する

実勢価格は「仮に売却した場合に得られるであろう価格」であり、遺産分割の実務ではこの価格が基準とされるのが一般的です 。

したがって、固定資産税評価額での提案に対しては、市場査定額を根拠に反論することが、より公平な分割につながります


具体的事例:固定資産税評価額 vs 市場価格

事例:兄弟間の遺産分割調停

被相続人が残した主な財産は、郊外の一戸建て住宅(築20年)と預貯金1,000万円。相続人は兄Aと弟Bの2人。

  • 固定資産税評価額:1,200万円
  • 不動産業者による市場査定額:1,800万円

弟Bが住宅を取得し、兄Aに代償金を支払う代償分割を希望。Bは固定資産税評価額を基準に「600万円の代償金」で提案。一方、Aは市場査定額を根拠に「900万円の代償金」を主張。

調停での展開

  • Aは複数の不動産業者の査定書を提出し、実勢価格が1,800万円前後であることを主張。
  • Bは「固定資産税評価額は公的な数値であり、信頼性が高い」と反論。
  • 調停委員は「市場価格が実際の取引に近い」として、査定額を重視する方向で調整。
  • 最終的に、1,500万円を基準とし、A750万円の代償金を支払うことで合意

ポイント

この事例では、固定資産税評価額を基準にするとBが有利になり、市場価格を基準にするとAが有利になります。調停では、公平性と実態に即した評価が重視され、双方が納得できる中間値での合意が図られました 


まとめ

不動産の評価は、遺産分割調停において公平な分割を実現するための鍵です。特に代償分割では、評価額が直接的に金銭の授受に影響するため、市場価格に基づいた主張が重要です。具体的な査定資料を用意し、冷静かつ論理的に交渉を進めることが、納得のいく解決への第一歩となります。

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