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被相続人の遺産の中に、抵当権付きの不動産がある場合があります。この不動産は、遺産分割においてどのように考慮されるのでしょうか。
このコラムでは、抵当権付き不動産のうち、特に物上保証不動産について、その評価方法や特別受益性などを解説します。
物上保証とは、他人の借金を担保するために、自分の不動産に抵当権などを設定することをいいます。たとえば、被相続人が子どもの借金のために自宅に抵当権を設定していた場合、その土地は「物上保証の土地」となります。
あくまで不動産を担保に差し出しているだけですので、物上保証をしている債務そのものを相続するわけではありませんが、抵当権は被相続人が死亡しても消滅しないため、相続時には以下の点が問題となることがあります。
遺産分割の話合いをする際に、まず、物上保証不動産の価値をいくらとみればよいのか問題となります。この点に関しては、物上保証をしている債務の債務者に十分な資力(返済能力)があるかどうかで変わります。
債務者に十分な返済能力がある場合には、仮に抵当権が実行されてしまったとしても、物上保証不動産の所有者は債務者に求償権(立て替えて支払った分を返せ)を行使することができますので、物上保証は考慮に入れずに通常の評価方法で評価されます。
債務者に十分な返済能力がない場合には、抵当権が実行されてしまったときに債務者から回収することが難しくなります。そのため、基本的には通常の評価額から物上保証をしている債務の残額を差し引いた金額がその不動産の価値とされることが多いです。
以上のように、物上保証不動産の価値は一律に評価できず低くなる傾向がありますが、被相続人が相続人の一人の借金のために物上保証を行っていた場合には、その相続人は物上保証で利益を得ているにもかかわらず、他の相続人は不利益を被るという不公平が生じてしまいます。
この不公平を解消する手段として、物上保証をしてもらったことを「特別受益」として考慮することができないかという問題があります。
相続において「公平な分割」を実現するために、民法は「特別受益」という制度を設けています。これは、ある相続人が生前に被相続人から特別な利益(贈与など)を受けていた場合に、その分を相続分から控除するという仕組みです。
この点について判断を示した重要な裁判例が、東京地方裁判所平成22年2月4日判決です。
東京地裁は、以下のように判断しました。
「被相続人から相続人への物上保証の設定は、贈与に準じて特別受益に該当すると解するのが相当である。」
さらに、
「被担保債権額が土地の評価額を超えている場合でも、土地の評価額を上限として、その範囲内で特別受益があったとみなすのが相当である。」
つまり、裁判所は物上保証を「贈与に準じる行為」として評価し、相続人Xが受けた利益として、土地の価値を上限に特別受益を認定しました。
物上保証設定自体を問題としていますので、元の債務がすでに返済されている場合や、担保が実行されていない場合でも、特別受益に該当し得ます。ただし、返済状況や担保実行の有無は、特別受益の「評価額」に影響を与える可能性があります。
物上保証は、形式的には「贈与」ではありませんが、実質的には相続人に対する利益供与と評価されることがあります。特に、抵当権設定が相続人の債務のためであった場合、その行為は「特別受益」として相続分に影響を与える可能性があります。
公平な相続を実現するためには、こうした「見えにくい利益」にも目を向けることも重要です。