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――原則・例外・判例動向を踏まえた実務的整理――
相続実務においてしばしば問題となるのが、「被相続人が孫に対して行った生前贈与は、遺産分割において特別受益として考慮されるのか」という点です。
特に近年は、相続税対策や孫への資金援助赢給の観点から「孫への生前贈与」が広く行われており、相続開始後に他の相続人(通常は子)が不公平感を抱く場面が増えています。
この問題は、民法903条の文言解釈にとどまらず、「形式」と「実質」のいずれを重視するかという相続法の根本理念が問われる論点でもあります。
特別受益とは、共同相続人の一部が被相続人から生前贈与等により特別の利益を受けている場合に、相続人間の実質的公平を図るため、その利益を相続分の算定に反映させる制度です。
民法903条1項は、特別受益の対象を次のように定めています。
そして重要なのは、条文上「共同相続人中に」と明示されている点です。
この文言から導かれる原則は明快です。
特別受益の対象となるのは、相続人に対する贈与に限られ、相続人でない者への贈与は原則として特別受益に当たらない、ということです。
孫は、通常の相続関係(子が存命)では法定相続人ではありません。したがって、
孫への生前贈与は、原則として特別受益には当たらない
というのが、実務・学説ともに一致した大原則です。
もっとも、この原則を形式的に貫くと、相続人間の公平が著しく害される場合があります。そのため、裁判例・実務では「実質的判断」が採用されています。
具体的には、
名義は孫であっても、実質的には相続人である子が利益を受けている場合
には、子に対する特別受益と評価される余地があります。
代表的なものが、神戸家庭裁判所昭和47年12月28日審判です。この事案では、
という事情のもとで、
孫への贈与は実質的に相続人本人への生計資本の贈与に等しい
として、相続人の特別受益と認定されました。
この類型では、
といった事情が総合考慮されます。
孫が代襲相続人として相続人の地位を取得するケースでは、問題は一層複雑になります。
この場合、**「いつ贈与がなされたか」**が重大な意味を持ちます。
について、裁判例の判断は分かれています。
福岡高裁平成29年5月18日判決は、
代襲原因前の贈与は、特段の事情がない限り特別受益に当たらない
と判示しました。
一方で、鹿児島家裁昭和44年6月25日審判は、受贈時期にかかわらず持戻し義務を認めています。
孫を養子とした場合、孫は相続人となります。この場合も、
のいずれを特別受益とするかについて、学説・裁判例は対立しています。
学説上は、大きく次の二つに分かれます。
実務では後者の考え方が強く、**「遺産の前渡しと評価できるか」**が判断基準とされています。
孫への生前贈与をめぐる紛争を防ぐためには、以下の点が極めて重要です。
特に、持戻し免除の意思表示は遺産分割上は有効でも、遺留分侵害の場面では制限される点には注意が必要です(最三小決平成24年1月26日)。
孫への生前贈与が特別受益に当たるかどうかは、
「孫」という形式ではなく、「相続人間の公平」という実質
によって判断されます。
これは条文解釈だけで機械的に決められる問題ではなく、個別事情に即した総合判断が不可欠です。
孫への生前贈与を検討する場合、将来の遺産分割紛争まで見据え、早期に専門家へ相談しましょう。